≪漢詩鑑賞≫蘇軾の世界~政治と文学
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◆政治と文学
私は、北宋を代表する詩人・蘇軾(1036~1101)の詩が好きだ。
中国史(特に唐や宋の時代)において、詩人は(朝廷に仕える)官吏であり、官吏は優れた詩人である。
政治と文学(詩歌)は密接な関係がある。
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◆嫉妬・愛憎・猜疑・裏切り
蘇軾は、21歳の時、進士の試験に及第し、26歳の時、高等事務官として官吏の道を歩み出した。
当時の政治は、王安石(1021~1086)を中心とする新法党と旧法党の、<政策の対立>があった。
しかし、政界は、(古今東西変わらないが・・・)嫉妬・愛憎・猜疑・裏切りの世界である。
<政策の対立>は、しだいに政策の対立を離れて<個人的感情の対立>へと変化する。
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◆我欲を離れて・・・
蘇軾は、幾度かの逮捕・流罪・召還・追放に遭いながらも、最期は「自由の身」となった。
その詩は、最後まで自然と人間に対する信頼に満ちている。
我欲を離れた生き方が新しい境地を開いている。
蘇軾の詩が好きな理由である。
(写真は千葉公園)
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子由(しゆう)の澠池(べんち)懐旧(かいきゅう)に和す
人生到處知何似 人生到る処知んぬ何にか似たる
應似飛鴻踏雪泥 応に似たるべし飛鴻の雪泥を踏むに
泥上偶然留指爪 泥上に偶然指爪(しそう)を留むるも
鴻飛那復計東西 鴻飛んで那(な)んぞ復東西を計らん
老僧已死成新塔 老僧は已に死して新しき塔となり
壊壁無由見舊題 壊れたる壁には旧題を見るに由無し
往日崎嶇還記否 往日の崎嶇(きく)たるを還(なお)記するや否や
路長人困蹇驢嘶 路長く人は困しみて蹇驢(けんろ)は嘶(いなな)けるを
人生のさすらい(到處)は、何に似ているだろうか。それは舞い降りた雁(飛鴻)が雪の泥土をひょいと踏むようなもの。
泥の上に、たまさか爪のあとを残しはするが、飛び去った雁のゆくえは、東とも西とも知りようがない。
あの時の老僧は、もうすでに亡くなって、新しい石塔になっているし、くずれた壁には、かつて私たちが書きつけた筆の跡(旧題)をさがすすべもない。
あの日の苦しい旅路(崎嶇)を君は今でも覚えて(記)いるか。道は遠く、人はつかれ、びっこのロバ(蹇驢)がしきりにいなないた事を。
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六月二十七日、望湖楼に酔うて書す五絶
黒雲翻墨未遮山 黒雲墨を翻して未だ山を遮らず
白雨跳珠亂入船 白雨珠を跳らせて乱れて船に入る
巻地風來忽吹散 地を巻き風来って忽ち吹き散ず
望湖楼下水如天 望湖楼下水天の如し
黒い雲が墨をぶちまけたように広がってきたが、まだ山をすっかり隠してはいない。と見る間に、夕立の白い雨滴が真珠をまいたように、パラパラと舟の中に降り込む。
やがて、大地をまきあげるように風が来て、たちまち雲や雨を吹き払い、望湖楼から見る湖の面は、大空の色をたたえて広がっている(水天の如し)。
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孔密州(こうみつしゅう)の五絶に和す東欄の梨花
梨花淡白柳深靑 梨花は淡白(たんぱく)にして柳は深青(しんせい)なり
柳絮飛時花満城 柳絮(りゅうじょ)の飛ぶ時花は城に満つ
惆悵東欄一株雪 惆悵(ちゅうちょう)す東欄(とうらん)一株(いっしゅ)の雪に
人生看得幾清明 人生幾たびの清明(せいめい)をか看得(みえ)ん
梨の花はほんのりと白く、柳は深い緑色。柳のわた(栁絮)が飛び交うころ、町はすっかり花でうずまってしまう。
庭の東の欄干の傍に、雪のように白く咲いていた一本の梨の木があったことを思い浮かべつつ、私はものおもいにふける(惆悵す)。はかない人の一生に、いったい何度このようなすばらしい清明の日と出会うことができるのだろうか。
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西林(さいりん)の壁に題す
横看成嶺側成峰 横より看れば嶺(れい)をなし側よりは峰(ほう)と成る
遠近高低無一同 遠近高低一も同じきは無し
不識盧山眞面目 盧山(ろざん)の真面目を識(し)らざるは
只綠身在此山中 只身の此の山中に在るに綠(よ)る
横からながめれば連なる山々に、すぐ側から見れば独立してそびえる峰にと変わる。盧山の山々は、遠近も高低もどれ一つ同じものはない。
盧山が様々な姿を見せても、その本当の姿を知ることができないのは、それは他でもなく、私の身が盧山の山の中にあることによる。
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澄邁駅(ちょうさいえき)の通潮閣(つうちょうかく)
餘生欲老海南村 余生を老いんと欲す海南の村
帝遣巫陽招我魂 帝(てい)巫陽(ふよう)をして我が魂を招かしむ
杳杳天低鶻没處 杳杳(ようよう)として天低(た)れ鶻(こつ)沒する処
青山一髪是中原 青山(せいざん)一髪(いっぱつ)是れ中原(ちゅうげん)
私は、もはや余生をこの僻遠の地である海南の村で過ごそうと思っていたが、天帝が巫陽に私の魂を呼び戻すようお命じになった。
はるかに(杳杳として)遠く大空は水平線の彼方にたれて、そこにはやぶさ(鶻)の姿がかき消える。ひとすじの髪の毛のように細く連なる山なみ、あれこそ中国の地だ。
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春夜
春宵一刻直千金 春宵一刻直千金
花有清香月有陰 花に清香有り月に陰有り
歌管楼臺聲細細 歌管楼台声細細(さいさい)
鞦韆院落夜沈沈 鞦韆(しゅうせん)院落(いんらく)夜沈沈(ちんちん)
春の夜は、ひとときが千金に値するほど、花には清らかな香りがただよい、月はおぼろにかすんでいる。
高殿の歌声や管絃の音は、先ほどまでのにぎわいも終わり、今はか細く聞こえるだけ。人気のない中庭(院落)にひっそりとブランコ(鞦韆)がぶら下がり、夜は静かにふけて行く。
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